どうも、15年勤めたデザインプロダクションを辞めて44歳でフリーのデザイナーになった中川あるくです。
会社を辞める時って、揉めることが多いですよね。
そもそも揉め事があるから、会社を辞めるって行動を起こすわけで、当然と言えば当然ですが。
でも、会社側に問題がある場合、こちらに非があるように話を運ばれてはかないません。
この記事では、僕が退社するにあたり、会社代表と交わした会話を振り返りながら、問題点を明確にするために不可欠な論点ずらしを封じる方法を語りたいと思います。
さくっと読むための目次
会社を辞めるのは面倒だ
退社を申し出たらまず、人事の権限を持っている人と話をしないといけません。
大体の場合、自分よりも上の立場の人と話をするわけだから、もうそれだけで話づらい。
上下関係ができてしまっている時点で、大きなハンデが付いているからです。
さらに、小さな会社の場合は経営者と直接会話をするわけで、経営者のトンデモな理屈と戦ったり、感情をぶつけられたりと大変です。
本来は事務手続きの1つに過ぎないのに、どうしてこんなに面倒なのでしょう。
実は3年ほど前にも退社を申し出たことがあります。
幹部である先輩デザイナーと代表の軋轢が深まり、先輩デザイナーが会社を離脱した時です。
先輩デザイナーは、僕に広告デザインの技術や知識を業務を通して指導してくれた人。
幾度となく共に徹夜を重ね、大晦日の夜に事務所で一緒に仕事をしていたこともあります。
広告という戦場を共に戦った頼れる部隊長でした。
当時は今よりも案件があり、広告代理店からの仕事とクライアント直取引の仕事が5:5という割合でした。
先輩デザイナーがデザイン業務全般を、僕が企画書作成とデザイン業務の補助とweb関連を担当していました。
そして代表はクライアントとの折衝を行っていました。
この状況で先輩デザイナーが抜けると制作の実務は全て僕がやらなければなりません。
とてもじゃないけど、一人で全てを処理することは困難だと思いました。
何より、必要以上に作り込みを要求する代表のやり方に僕自身辟易としていました。
そこで、退社を申し出たのです。
「先輩デザイナーが辞めるなら、僕も辞めます」と。
しかしこの申し出は認められませんでした。
応接用のソファーで代表と僕の二人、膝を突き合わせて5時間に及ぶ引き止めの説得が行われました。
説得は時に激しく、時に甘く。
恫喝とも取れるような激しい口調で独自の論理を展開したかと思えば、雇用条件の優遇を語るという鞭と飴を交互に振るうものでした。
それが5時間も続く。
今思えば、なぜその時に会話を録音しなかったのかが悔やまれます。
証拠を持って駆け込む先はいくらでもあったのではないかと思います。
当時の僕は、この異常な説得から逃れたい一心で、ついに退社を諦めてしまいました。
人の心は弱い。
代表はとにかく弁の立つ人だ
15年間そばで見てきましたが、代表はとにかく弁が立つ。
その巧みな弁舌で多くの案件を受注してきたツワモノです。
ただその話術、注意深く観察していると論点ずらしが多用されていることに気がつきます。
会話を有利に進めることはもちろんですが、究極の目的は「結論を自分で下さない」ことにあります。
つまり、責任を負うことを嫌う人なんですね。
今回の退社の理由は100%会社に責任があるのです。
だからこそ論点ずらしを行なって責任を逃れてくるに違いありません。
1度は退職に失敗した僕ですが、今回こそは必ず退職しなければなりません。
僕は事前に代表との会話をシミュレーション、振る舞い方やNGワードを洗い出しました。
やっぱりきたよ論点ずらし
何を言われても絶対に退社するんだという気持ちで話に臨みます。
はい、きましたよ論点ずらし。
給料未払いの話から、仕事に対するメンタルの話にスイッチしましたね。
会社を辞めたいと思っているのは僕の気持ちの問題であって、給料未払いは理由の一部でしかないという構図になりました。
感情に触れる論点ずらしに釣られるな
確かに仕事に嫌気はさしてますよ。
仕事の単価がめちゃくちゃ下がっています。
具体的な要件がないまま仕事を丸投げされることも多い。
素人判断で何度も修正を入れられる。
作業量が増えて赤字になる。
とにかく夜が遅い。
数え上げればキリがない。
でもそれは業界あるあるの類です。
デザイナーはみんな感じてる種類の感情です。
でもこれは、給料が支払われていたら我慢できる種類の嫌なことです。
でも僕が今最大級に嫌だと思っているのは、未払いの賃金が4ヶ月分もあること、そして今後の支払いの目処が立っていないことです。
仕事に対する嫌気ではなく、会社に対する嫌気なのです。
・・・気がつきましたか?
思い返してキーボードを叩いている、つまり冷静に文章を考える環境にあるのに、僕は過去の感情がよみがえってメンタルの話をしていますよね。
相手の感情を刺激して脊髄反射で喋らせるなんて、本当に簡単なんです。
本来の論点は「給料が出るか否か」であり、「給料が出ないなら辞める」です。
ですが、仕事に対する不満や会社に対する不満を吐き出させることで、僕の都合で辞めるという構図が出来上がるのです。
これでは退社の責任は代表と僕の双方にあることになってしまいます。
「感情に触れる論点ずらし」の効果はすこぶる大きく、一瞬で本来問うべき問題をかき消してしまいます。
論点ずらしを封じる決め台詞
論点ずらしは責任逃れのための話術です。
相手は様々な話題で論点をずらしにかかります。
特に「感情に触れる論点ずらし」は厄介です。
対策のキモは感情的にならないことが第一。
冷静でいられれば会話の流れを把握することが可能です。
会話の流れを把握していれば、相手が論点をずらすために放つ言葉に気づくことができます。
また、冷静でいられれば不用意な発言を避けることができます。
感情的に会話に応じるということは相手を利するだけなのです。
では、論点がずれたその時にどうやって軌道修正を図るのか。
答えはシンプルです。
「話を戻しましょう」ただそう言えば良いのです。
以前の僕は論点ずらしに付き合った後、会話の流れの中で本来問うべき話題に戻すようにしていました。
でもこれではダメです。
論点ずらしに付き合った時点で僕に責任がなすりつけられているからです。
一度負った責任をゼロに戻すことは難しいのです。
だから即座に話を戻さなければなりません。
相手が問題から逃げられないように縛る。
気の弱い人には大変な行動かもしれませんが、背に腹はかえられません。
退職はその後の人生に大きく関わるからです。
退職を逃して得をすることなんてありません。
弁論本でテクニックを知るよりも、冷静さを保つことの方が大事
世の中には弁論や議論、ディベートに関する書籍がたくさんあります。
その中には反論する力を養うものや、詭弁を封じるテクニックを磨くことに重きを置いたものもあります。
そういった書籍から知識を得ることは大切ですが、その知識が活用できるのは会議やプレゼンテーションなど平時に限っての話でしょう。
退社をめぐって話をしている場合は、感情的になりがちです。
感情が昂ったその刹那、議論のテクニックを振るうことはできないと思います。
クルマの運転で言えば、パニックブレーキと同じです。
硬直した思考で、どうして論理的に考えられるというのでしょうか。
社会に出るまでの二十数年、僕たちは言葉の使い方や会話の方法を生活の中で身につけています。
話すことは十分にできるはずなのです。
これから退社を申し出る人に伝えたいことは、冷静を保つことの大切さ。
論点をずらされて、余計な責任や負い目、引け目を背負わないように退社の話をしてください。